戦国の世が終わり、泰平の世が到来した江戸時代初期、現実社会を厭世的な「憂世(うきよ)」から肯定的な「浮世(うきよ)」と捉える時代の風潮を反映し、活況に満ちた都市を舞台に人々がつどい、遊び楽しむ様子を生き生きと描き出した風俗画が数多く登場しました。
風俗画は、やがて背景を省略して人の姿そのものを対象とするようになり、美しい姿かたちや小袖模様に意匠を凝らした遊楽人物図が生み出されました。一方で、四季の移ろいのなかで人々が生活を営む様子を主題とした屛風や図巻は脈々と描き続けられ、名だたる画家たちが清新な風俗画の世界を展開しました。
江戸時代の風俗画は、現実の生活を生き、平和を謳歌する人々に視線を注いだ絵画であり、普遍的な魅力にあふれています。風俗画の名品の数々を、小袖や調度品とともに展示し、その魅惑の世界に誘います。
第1章 都市に生きる
当時、日本各地で莫大な金銀が産出され、海外交易がもたらした巨万の富は、未曾有の活況を生み、人々の生活を豊かにしました。
慶長8 年(1603)、徳川家康が京都に二条城を築くと、都市風俗図である洛中洛外図も変貌を遂げていきます。
また同年に評判となった出雲のお国の歌舞伎踊りをはじめ、歓楽街として賑わいをみせた四条河原、華麗な風流を伴う祭礼など、時世粧を敏感に採り入れ、さまざまな画題の風俗画が生み出されました。
「浮世又兵衛」の異名で後世に称賛された岩佐又兵衛の躍動感あふれる人物表現をはじめ、この時期の風俗画は人々の明るく楽しげな声や息づかいまでが聞こえてきそうな臨場感と熱気に満ちています。
第2章 遊びつくす
天下泰平の世は、人々を浮世の享楽へと導き、絵画の上でも広壮な邸宅を舞台に人々がさまざまな遊びを繰り広げる様子を描いた邸内遊楽図が生み出されました。花のミヤコ・京都か新興都市・江戸か、はたまた遊里の妓楼(ぎろう)か貴顕の邸宅か、どことも判別がつけがたい場所で、人々が美しい衣裳を身にまとい、酒食を楽しみ、舞い踊り、さまざまな遊びにふける情景には、享楽的な雰囲気が濃厚に漂います。一方で、茶・花・香の高雅な遊びや、中国の君子がたしなむ四芸である琴棋書画(きんきしょが)に見立てられた雅遊、さらには蹴鞠(けまり)や楊弓(ようきゅう)などの公武の諸芸なども見いだされ、雅俗(がぞく)の遊びがない交ぜとなっています。
刹那の快楽に身を投じる人々の様子は、日常の生活とはかけ離れ、どこか非現実的です。そこは日々の憂さから解き放たれることのできる、人々の夢や憧れが結集した悦楽の理想郷なのかもしれません。
第2章 遊びつくす
天下泰平の世は、人々を浮世の享楽へと導き、絵画の上でも広壮な邸宅を舞台に人々がさまざまな遊びを繰り広げる様子を描いた邸内遊楽図が生み出されました。花のミヤコ・京都か新興都市・江戸か、はたまた遊里の妓楼(ぎろう)か貴顕の邸宅か、どことも判別がつけがたい場所で、人々が美しい衣裳を身にまとい、酒食を楽しみ、舞い踊り、さまざまな遊びにふける情景には、享楽的な雰囲気が濃厚に漂います。一方で、茶・花・香の高雅な遊びや、中国の君子がたしなむ四芸である琴棋書画(きんきしょが)に見立てられた雅遊、さらには蹴鞠(けまり)や楊弓(ようきゅう)などの公武の諸芸なども見いだされ、雅俗(がぞく)の遊びがない交ぜとなっています。
刹那の快楽に身を投じる人々の様子は、日常の生活とはかけ離れ、どこか非現実的です。そこは日々の憂さから解き放たれることのできる、人々の夢や憧れが結集した悦楽の理想郷なのかもしれません。
第3章 美をきわめる
人物画は、本来、その容貌や肉体の美が追求されますが、この時期の遊楽人物図や美人図では、化粧や黒髪を束ねて作る結髪(けっぱつ)、身にまとう衣裳模様の美しさ、優美な手足の仕草や立ち居振る舞いを描き出すことに意が注がれました。とくに衣裳の表現は、17 世紀以降、めざましい発展を遂げた染織技術を反映しています。技巧を極めて美を尽くし、かつ時代の先端をいく意匠の小袖を描くことで、時にこれをまとう人物の気概や美意識をもあらわす役割を果たしました。
第4章 泰平をたのしむ
17 世紀半ばを過ぎると、現世を意味する「浮世」という言葉も変化します。当世風、つまり流行の風俗との意味が加わり、さらには芝居・遊里などの悪所を示す言葉となって、絵画の上では役者絵と美人画を二大ジャンルとする「浮世絵」が誕生しました。浮世絵が版本や一枚絵の版画に独自の発展を遂げる一方、四季の移ろいのなかで人々が生活を営む様子を主題とした屛風や図巻は脈々と描き続けられ、名だたる画家たちが清新な風俗画の世界を展開しました。
大衆向けの版本や版画と異なり、屛風や図巻は特権階級の注文によって描かれることが多く、注文者の理想や憧れ、時に政治的な意図などが反映されました。四季折々の美しい情景のなかに展開された、万民が日々の暮らしをつつがなく営む安寧な世。描かれた人々の穏やかな暮らしぶりには、泰平の世を寿ぎ、これが永く続くことを願う人々の思いが込められているかのようです。
第4章 泰平をたのしむ
17 世紀半ばを過ぎると、現世を意味する「浮世」という言葉も変化します。当世風、つまり流行の風俗との意味が加わり、さらには芝居・遊里などの悪所を示す言葉となって、絵画の上では役者絵と美人画を二大ジャンルとする「浮世絵」が誕生しました。浮世絵が版本や一枚絵の版画に独自の発展を遂げる一方、四季の移ろいのなかで人々が生活を営む様子を主題とした屛風や図巻は脈々と描き続けられ、名だたる画家たちが清新な風俗画の世界を展開しました。
大衆向けの版本や版画と異なり、屛風や図巻は特権階級の注文によって描かれることが多く、注文者の理想や憧れ、時に政治的な意図などが反映されました。四季折々の美しい情景のなかに展開された、万民が日々の暮らしをつつがなく営む安寧な世。描かれた人々の穏やかな暮らしぶりには、泰平の世を寿ぎ、これが永く続くことを願う人々の思いが込められているかのようです。
詳細
日程 |
2023 年9 月24 日(日)~ 11 月5 日(日) ※会期中展示替あり(前期:9 月24 日(日)~10 月15 日(日)/ 後期: 10 月17 日(火)~11 月5 日(日)) |
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休館日 | 月曜日 ※ただし10月9日は開館、10月10日は休館 |
時間 | 10:00~17:00(備考:最終入館は16:30まで) |
開催場所 | 徳川美術館・名古屋市蓬左文庫 |
料金 | 有料:一般1600円 高大生800円 小中生500円 ※毎週土曜日は高校生以下無料 |
お問い合わせ先 | 徳川美術館 |
TEL | (052)935-6262 |
ホームページURL | https://www.tokugawa-art-museum.jp/exhibits/planned/2023/0924/ |
アクセス | 市バス:基幹2系統「徳川園新出来」下車徒歩3分 JR:中央本線「大曽根」駅南口下車徒歩8分 |
※掲載内容は変更となる場合があります。最新の情報は公式ホームページ等にてご確認ください。